記者の目:学力テストを教育現場から考える=田中博子
07年度から実施された全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)は、事業仕分けで「抽出対象を絞り込む」と判定された。全員対象から40%の抽出方式に切り替える方向だったが、抽出率はより縮減される見通しだ。結果の公表で「序列化を招く」とも批判されたが、市町村別の平均正答率公表で揺れた大阪府の教育現場から、学力テストのあり方を考えてみたい。
大阪府の橋下徹知事は初当選した昨年1月の知事選で、「子どもが笑う」をキャッチフレーズに、子育て・教育支援の充実を訴えた。同年8月、学力テストの結果が公表され、小学6年生、中学3年生ともに低迷していた。知事は府教委を批判し、「百ます計算」の陰山英男氏らを教育委員に任命した。塾と連携した補習、教材開発など学力向上策も進め、全国で初めて、府内の市町村別の平均正答率を公表した。
文部科学省は、序列化や過度な競争を避けるため、都道府県教委に対し、市町村別の平均正答率の結果を公表しないよう求めている。しかし橋下知事は「大阪では必要。譲れない」と一歩も引かず、情報公開の徹底、競争が質を向上させる、という考え方も一貫している。全校で土曜補習を始めたり、授業改善に動き始めた自治体もある。
だが、それだけで学力問題が解決するほど実情は単純ではない。大阪府は、経済的に困難で就学援助を受ける家庭が6年生で3割以上ある小学校が33%を占め、全国平均(9%)を大きく上回る。
私はいくつか学校を訪ね、学習環境に恵まれない子どもを支える教職員を見た。そこでは知事の声高な掛け声にとらわれない、地域に根ざした教育が実践されていた。
大阪府中部にある小学校は、給食を準備する15分間を、授業の理解が遅れた児童の補習にあてている。教師は児童の脇にしゃがみ込み、分かるまで付きっ切りで教える。別の小学校は、親が朝食を用意できない児童のために、教師がポケットマネーでパンと牛乳を準備していた。時間を惜しまず、児童の環境の差を埋めようとする教師の姿に頭が下がる思いだった。
今年度、大阪府の小学6年生の結果が上がった。橋下知事は一連の学力向上策の成果と評価する。でも私が取材した学校は、いずれも直接的な学力対策だけでなく、友人や家族、地域との結びつきを重視する教育が学力の向上につながっていた。
さらにいえば、生徒会を中心に学校行事を運営することで生徒の集団づくりをしている中学校もあった。経済的に苦しい家庭が3割を超える小学校では、4年生になると、仕事や子育ての思いを親から聞き取っている。児童が家族との関係を深め、自分に誇りを持てるようにするためだ。周囲との安定した関係が子どもの学習意欲を育てるという。こうした学校では、抱える事情にかかわらず、子どもたちが伸び伸びと学校生活を送っているという印象を受けた。学力テストの成績が上がった実例も聞いた。
こうしてみると、都道府県での順位に一喜一憂する橋下知事や府教委の姿勢は上滑りな感じがして仕方がない。学校や地域間の生活環境の違いを考慮せずに市町村別の平均正答率だけを比べても意味があるとは思えない。
全員参加型テストが残したものは何だったのか。学校を騒動に巻き込んだだけだったのか。特に大阪ではそういう面が大きい。しかし一方で、プラスの面もあったと思う。
学力調査と一緒に実施された学習状況調査は、生活状況でも大阪と全国に差があることを明らかにした。朝食を取らない子どもが多い、早寝早起きができていない、と感覚的に語られてきた大阪の子どもの生活の乱れが数値で示され、課題として認識された。この意義は大きい。
07年度の学習状況調査で、家庭での読書時間が少ないことが課題になった大阪府高槻市は昨年6月、全小学校に図書館支援員を配置した。読み聞かせをしたり、市立図書館と連携して新刊を紹介する。貸出冊数が増え、本に興味がなさそうだった児童も図書館に来るようになった。学力調査と学習状況調査を合わせて考え、課題を見つけて克服する動きが芽生えている。
学力テストの結果は、「競争」に使うのではなく、子どもたちを支えるために大人が何をできるのかを考えるために活用できるはずだ。抽出方式にするのは賛成だ。結果が早く出るので、教育現場が課題を速やかに把握し対応できるメリットがあるからだ。
教育行政にかかわる人は、平均正答率だけでなく、学習状況調査の結果も深く読み込み、人や予算を充実させて、学校現場の地道な取り組みを支えることを求めたい。 (大阪社会部) 毎日
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この記事は大事なことを指摘しています。知事が目の色変えて、点数と順位のアップをトップダウンで叫んだからそれらがよくなってきたんではないということです。この記者の目もいいですね。
「 知事の声高な掛け声にとらわれない、地域に根ざした教育が実践」「 給食を準備する15分間を、授業の理解が遅れた児童の補習にあてている」
「親が朝食を用意できない児童のために、教師がポケットマネーでパンと牛乳を準備していた。時間を惜しまず、児童の環境の差を埋めようとする教師の姿に頭が下がる思いだった。」の文字にそれが分かります。
このことからも分かるように、子ども達を育て学校を運営しているのは全国の多くの良心的な教師なのです。どれだけ上からたたかれようが、管理が強くなろうが、黙々と絶え、ひたすら子ども達のために日々奮闘している多くの教師がいることをこの記者は見抜いています。つらいけど教師は自信を持つべきだと思います。
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